癒やしと治療の拠点を作る――リラクゼーション・鍼灸・整体の物件選びのポイント

近年、人々の健康意識は「病気になってから治す」という考え方から、「病気にならない身体を作る」という予防医療や、自然な状態に身体を整えるセルフケアへと大きくシフトしています。こうした背景を受け、心身を解きほぐすリラクゼーションサロン、国家資格に基づく治療を行う鍼灸院、そして身体の歪みを整える整体院など、各種施術所への需要は高まっています。
これからこれらの分野で開業を志す方にとって、最大の関心事の一つが「どこに・どんな拠点を構えるか」という物件選びでしょう。しかし、一見似たように見えるこれらの業態も、実は法律上の定義や必要な設備、適した立地条件が大きく異なります。本稿では、理想の物件に出会うために知っておくべき知識と、テナント探しのポイントを詳しく紐解いていきます。
■10秒でわかる!この記事の内容
・リラクゼーション、鍼灸、整体は法律上の位置づけが異なり、物件に求められる要件も変わる。
・自宅開業は低リスクだが、集客力や信頼性の面でテナント賃借が中長期的な成長には有利。
・鍼灸院やマッサージ業を行う場合は、保健所の構造設備基準をクリアする物件選びが必須。
・店舗の階数や視認性はターゲット層に合わせ、周辺環境の静寂性や設備容量も細かく確認する。
・物件選びは「やりたい施術」と「法規制」のバランスを最適化するプロセスである。
■業態による違いを正しく理解する
物件探しを始める前に、まずは自身が開業しようとしている業態が、法律上どのような位置づけにあるのかを整理する必要があります。ここを曖昧にしていると、契約後に「予定していた施術ができない」「保健所の許可が下りない」といった致命的なトラブルを招きかねません。
まず「鍼灸院」は、国家資格を持つはり師、きゅう師が施術を行う場所であり、法律上は「施術所」として扱われます。開設にあたっては、保健所への届け出が必要となり、待合室の面積や換気設備、消毒施設など、非常に厳格な構造設備基準をクリアしなければなりません。これに対し「リラクゼーションサロン」や「整体院」は、いわゆる民間資格や無資格(法的な医業類似行為に当たらない範囲)でのサービス提供となるため、基本的には保健所への届け出義務はなく、一般的な店舗物件としての利用が可能です。
ただし、名称や広告表現には注意が必要です。「マッサージ」という言葉は、あん摩マッサージ指圧師という国家資格保持者がいる施設でなければ使用できません。リラクゼーションサロンとして物件を探す際も、その場所でどのような「看板」を掲げたいのか、どのような表現で集客したいのかを、あらかじめ不動産会社に伝えておくことが、後の規約違反を防ぐ鍵となります。
■自宅改装か、テナント賃借か
次に検討すべきは、住居の一部を改装して開業する「自宅開業」か、駅前や商店街などの「テナント賃借」かという選択です。
自宅開業の最大のメリットは、何と言っても固定費の低さにあります。家賃の負担を大幅に抑えられるため、経営の安定性は格段に高まります。また、通勤時間がゼロであることや、家事・育児との両立がしやすいといったライフスタイルの面での恩恵も大きいでしょう。一方で、プライベート空間との境界が曖昧になりやすく、住所を公開することによる防犯上の懸念や、生活感が出てしまうことで高単価なサービスを提供しにくいといったデメリットも存在します。特に、鍼灸院のような「治療」を目的とした場所では、清潔感や信頼性が重要視されるため、住居用の玄関や水回りをそのまま共有することは望ましくありません。
これに対してテナント賃借は、高い集客力と社会的信頼を同時に獲得できる手段です。視認性の高い路面店であれば、通りがかりの客が認知する広告効果が期待できますし、ビジネスとして独立した空間を持つことで、顧客も安心して通うことができます。初期費用や月々の固定費は膨らみますが、事業を拡大し、スタッフを雇用して運営していく未来を描いているのであれば、最初からテナントを選択するメリットは極めて大きいと言えます。
■テナント物件探しで重視すべき5つのポイント
いよいよ具体的に物件を探す段階に入った際、リラクゼーションや治療院という特有のサービスを前提にすると、チェックすべき項目は多岐にわたります。
第一に「構造設備基準の遵守」です。これは特に鍼灸院やあん摩マッサージ指圧の施術所を開設する場合に避けて通れません。例えば、施術室は6.6平方メートル以上、待合室は3.3平方メートル以上必要であること、施術室と待合室は壁で完全に仕切られていること、換気設備が十分であることなどが細かく定められています。物件の内見時には、メジャーを持参し、仕切り壁を作った場合にそれぞれのスペースが基準を満たせるか、物理的な寸法を必ず確認してください。
第二に「水回りと電気容量」の確認です。リラクゼーションサロンであっても、足湯の提供やタオルを頻繁に洗濯・乾燥させる場合、水道や電気の消費量は一般店舗を上回ります。古いビルや小規模なワンルームマンションを転用する場合、排水管の径が細かったり、電気のアンペア数が不足していたりすることがあります。また、鍼灸院では手指消毒のための流水施設(洗面台)を施術室内に設置することが義務付けられているため、給排水管を新設できる床下構造かどうかも重要な判断基準となります。
第三に「周辺環境の静寂性」です。リラクゼーションや整体において、顧客は「癒やし」や「リラックス」を求めて来院します。隣のテナントが賑やかな飲食店であったり、激しいトレーニングを伴うジムであったりする場合、壁を伝う騒音や振動が施術の質を著しく下げてしまいます。内見は昼間だけでなく、夜間や近隣店舗のピーク時にも行い、静かな環境が保たれているかを肌で感じることが大切です。
第四に「アクセスの利便性と視認性」です。ターゲット層が会社帰りのビジネスパーソンであれば駅からの導線が重要ですし、高齢者や主婦層であれば、平坦な道で通えるか、近くに駐輪場やコインパーキングがあるかが成否を分けます。また、店舗が2階以上にある場合は、看板を出せるスペースがあるか、エレベーターが清潔で女性一人でも乗りやすい雰囲気かといった「入りやすさ」を顧客の目線でチェックしなければなりません。
第五に「用途地域と管理規約」の確認です。住居専用地域などの「用途地域」によっては、店舗の営業が制限されている場合があります。また、マンションの一室を借りる場合には、管理規約で不特定多数の出入る業態を禁止していないか、看板の設置が許可されているかを事前に管理組合に確認する必要があります。これを怠ると、内装工事を始めた後で近隣住民から苦情が出て、撤退を余儀なくされるという最悪のケースも想定されます。
■経営を支える「器」としての物件選び
物件選びは、単に場所を決める作業ではなく、自身のビジネスモデルを具現化する「器」を選ぶ作業です。例えば、高度な治療技術を売りにする鍼灸院であれば、駅からの距離よりも静かで落ち着いた個室環境を優先すべきかもしれません。逆に、低価格で気軽に立ち寄れるリラクゼーションサロンであれば、多少家賃が高くても1階の路面店を選び、回転率で勝負する方が賢明な場合もあります。
近年では、リラクゼーションサロンの廃業率が高いという厳しい現実もあります。その要因の多くは、集客の不安定さと固定費の圧迫にあります。物件探しの段階で、想定される客単価と来店者数から、無理なく支払える家賃の限界を見極める冷静さも忘れてはなりません。
また、物件が決まった後は、内装デザインにも細心の注意を払いましょう。リラクゼーションであれば照明の明るさや壁紙の色使いが顧客の満足度を左右しますし、治療院であれば清潔感と機能性が重要になります。物件のポテンシャルを最大限に引き出すためには、借りる側がその空間で過ごす顧客の姿をどれだけ具体的に想像できるかが問われるのです。
■この記事のまとめ
予防医療や健康への投資が一般化している今、リラクゼーション、鍼灸、整体という仕事は社会的に大きな役割を担っています。その拠り所となる物件は、オーナーにとっては戦場であり、顧客にとっては心身を預ける聖域でもあります。
法的な制約、設備の要件、そしてターゲット層とのマッチング。これらを一つひとつ丁寧にクリアしていくプロセスは、決して容易ではありません。しかし、自身のビジョンに合致した最良の物件に出会うことができれば、それは事業の成功を力強く後押ししてくれる強力なパートナーとなります。本稿で挙げたポイントを指針として、理想の空間を作り上げ、多くの人々に健やかな毎日を提供できる一歩を踏み出していただければ幸いです。
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