テイクアウト専門店の物件選び、法的要件と実務的な注意点

近年の社会情勢の変化により、飲食業界ではテイクアウトという販売形態が一般化しました。限られたスペースで運営できるテイクアウト専門店は、固定費を抑えたい経営者にとって現実的な選択肢の一つとなっています。しかし、小規模な店舗であっても、飲食物を提供する以上は一般の飲食店と同様、あるいはそれ以上に細かな法的ルールを遵守しなければなりません。
物件探しにおいて、単に立地や賃料だけで判断してしまうと、後の設備工事や営業許可の段階で予期せぬ制約に直面することがあります。本稿では、テイクアウト専門店や小規模飲食店を開業する際に、物件の選定段階から意識しておくべき法律的な要件と、実務上の留意点について整理します。
■10秒でわかる!この記事の内容
・テイクアウト需要の定着に伴い、小規模物件を活用した開業が増えています。
・物件選びでは「用途地域」を確認し、希望する業態が法的に許可されるかを確認します。
・2021年の法改正により、販売形態に応じた営業許可の区分が細分化されました。
・消防法や建築基準法に基づき、火気使用や避難経路の確保が必須となります。
・インフラ(電気・ガス・排水)の容量不足は、追加費用の発生要因となります。
・賃貸借契約では、原状回復の範囲や看板設置に関する制限の確認が重要です。
■都市計画法と用途地域による出店の制限
物件探しの最初のステップは、その場所で「飲食店の営業が可能かどうか」を確認することです。これは都市計画法に基づく「用途地域」によって定められています。土地の利用目的を分類するこの制度では、地域によって建築できる建物の種類が制限されています。
例えば、静かな住環境を保護するための「第一種低層住居専用地域」などでは、原則として飲食店の設置が認められません。一方で、同じ住宅地でも「近隣商業地域」や「準住居地域」であれば、一定の条件を満たすことで出店が可能になります。テイクアウト専門店は住宅街の需要を見込んで物件を探すケースも多いですが、検討している物件の用途地域を事前に確認し、行政の制限に抵触していないかを確認することが重要です。
また、建築基準法における「用途変更」についても留意が必要です。以前が事務所や物販店だった物件を飲食店に改装する場合、床面積が200平方メートルを超える場合には確認申請という手続きが必要になります。テイクアウト店は小規模なケースが大半ですが、建物の構造や防火区画に関する基準は規模に関わらず適用されるため、古いビルや一軒家を活用する場合には、現行の法規に適合させるための改修が必要になることがあります。
■食品衛生法の改正と営業許可の区分
2021年6月に施行された改正食品衛生法により、営業許可制度が見直されました。テイクアウト専門店を開業する場合、この新しい区分を正しく理解しておく必要があります。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000233
一般に、店内で調理して容器に詰めて販売する形態は「飲食店営業」の許可で対応可能です。しかし、扱う食品の種類や製造の工程によっては、別の許可が必要になる場合があります。例えば、あらかじめ包装された食品を販売する、あるいは特定の加工食品を製造して他店へも卸すといった場合には、「惣菜製造業」や「菓子製造業」といったカテゴリーの許可が求められることがあります。
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000343598.pdf
物件の内部構造も、これらの許可基準を満たさなければなりません。具体的には、調理場と客席(あるいは販売スペース)が明確に区切られていること、従事者用の手洗い場と調理用のシンクが適切に配置されていることなどが挙げられます。テイクアウト専用窓口を設ける際も、外部からの異物混入を防ぐ構造であることが求められるため、内装設計の段階で管轄の保健所に図面を持参し、事前相談を行うことが推奨されます。
■消防法に基づいた安全設備の整備
飲食を扱う物件において、消防法への適合は避けて通れない要件です。火気を使用する厨房設備がある場合、それに応じた消火設備や報知設備の設置が義務付けられています。
小規模な店舗であっても、誘導灯の設置や火災報知器の配備、さらには防炎物品の使用などが求められます。また、雑居ビルの一角に入居する場合、そのビル全体の消防点検状況や、避難通路の確保状況も確認対象となります。特にガスコンロやフライヤーなどの熱源を使用する場合、排気ダクトの構造が防火基準を満たしているかどうかが重要です。ダクトが適切に清掃・管理されていない、あるいは設置方法が不適切であると、消防署の検査をパスできないだけでなく、火災リスクそのものを高めることになります。
■設備インフラの容量確認
テイクアウト専門店、特に調理を伴う業態では、電気・ガス・水道のインフラ容量が店舗運営の大きな制約になることがあります。小規模な物件は元々事務所や軽作業向けに設計されていることが多く、飲食店の設備を動かすには容量が不足しているケースが散見されます。
電気容量については、業務用冷蔵庫やオーブン、フライヤーなどを同時に使用した場合にブレーカーが落ちないかを確認しなければなりません。不足している場合は引き込み工事が必要になりますが、これには建物の所有者の承諾と、相応の費用が必要です。
ガスについては、都市ガスの配管径が業務用の火力に対応しているかを確認します。プロパンガスを利用する場合は、ボンベの設置スペースが確保できるかも重要なポイントとなります。
水道・排水に関しては、特に「グリストラップ(油脂分離槽)」の設置が重要です。下水道法や自治体の条例により、調理排水をそのまま流すことは禁じられており、油分を分離する装置の設置が求められます。床下の深さが足りずグリストラップを埋設できない場合、床上げ工事が必要になり、天井高が低くなってしまうなどの影響が出ることがあります。
■賃貸借契約における実務上の留意点
物件を契約する際には、テイクアウトという業態特有のトラブルを未然に防ぐための確認が必要です。
まず、賃貸借契約書の「使用目的」にテイクアウト販売が含まれているかを確認します。また、テイクアウト店では「店外での待ち客」や「調理に伴う臭気・騒音」が近隣とのトラブルに発展することがあります。契約書内にこれらに対する具体的な制限や禁止事項がないか、事前によく確認しておきましょう。
看板の設置に関する規約も重要です。店構えが広告塔となるテイクアウト店において、看板を出せる範囲やサイズが制限されていると、集客に影響を及ぼします。屋外広告物条例などの公的な規制に加え、ビルオーナー独自のルールが存在することもあるため、事前の確認が欠かせません。
さらに、退去時の「原状回復」についても明確にしておく必要があります。飲食店は内装や配管工事が複雑なため、スケルトン状態に戻すための費用が高額になりやすい傾向があります。どこまでの範囲を元に戻すべきか、契約時に詳細を詰めておくことは、将来的な経営リスクの軽減につながります。
■営業届出と周辺環境への配慮
開業にあたっては、保健所の営業許可だけでなく、消防署への「防火対象物使用開始届」などの提出も必要です。これらは物件の引き渡し後、内装工事が完了する前後のタイミングで行うことになります。
また、法的要件とは別に、近隣住民や他テナントとの関係性にも配慮が必要です。テイクアウト店は人の出入りが激しくなる傾向があり、駐輪やゴミ出しのルールが不適切であると、営業継続に支障をきたす苦情に発展しかねません。法的な基準をクリアすることはあくまで最低限の土台であり、その上で地域環境に適応した運営を計画することが、安定した経営の鍵となります。
■この記事のまとめ
テイクアウト専門店の開業は、比較的小規模な資本からスタートできるメリットがありますが、そこには飲食店としての厳格な法的責任が伴います。物件選びの段階で、用途地域、食品衛生、消防、インフラといった多角的な視点から「その場所が営業に適しているか」を検証することは、無駄な追加投資やトラブルを避けるために必要不可欠なプロセスです。
法的な要件を一つずつ丁寧に確認し、行政機関や専門家と連携しながら準備を進めることが、健全な店舗運営を実現するための着実な一歩となります。自身の提供したいサービスと、物理的・法的な条件を合致させることで、長く愛される店舗を築いていくことが期待されます。
店舗ネットワークでは、出店準備からご契約後の内装・集客・販促までをトータルでサポートしております。飲食店の開業を検討される際は、お近くの店舗ネットワーク加盟店に是非ご相談ください。
