テナントに選ばれる物件の「共通点」とは?

店舗の賃貸経営において、所有する物件の収益力を最大化することは、オーナー様共通の願いです。しかし、「空室がなかなか埋まらない」「賃料を相場より高く設定できない」といった悩みは尽きません。空室を早期に埋め、安定した高い賃料を得るためには、ご自身の物件が、数多ある競合物件の中からテナントに「この物件に決めたい!」と強く思ってもらうための、明確な理由を持っていなければなりません。優良なテナントほど、物件選定の目はシビアです。彼らは自身の事業の成否をかけ、多額の投資を行って出店するからこそ、物件の細部にわたって厳しくチェックしています。
今回は、優良テナントが物件選定時に具体的にどのようなポイントを見ているのかを、「設備・構造」「運用・管理」「募集活動」の3つの側面から深掘りします。本記事を、ご自身の物件の「強み」と「弱み」を再点検し、効果的な改善策を講じるためのチェックリストとしてご活用ください。
■10秒でわかる!この記事の内容
・店舗物件の収益最大化と空室解消には、テナントが重視する「設備・構造」「運用・管理」「募集活動」の3つの視点での再点検が不可欠
・「設備・構造」では、電気・ガスの容量や給排水設備が事業実現性を左右するため、スペックの把握や増設費用の試算がテナント誘致の鍵
・飲食店等を「相談可」にするための設備対応や、集客に直結する天井高・間口の広さをアピールすることで、物件の競争力を高める
・「運用・管理」においては、共用部の清潔さが信頼感を生み、退去時の原状回復ルールを事前に明確化することで長期契約への安心感を醸成
・「募集活動」では、現地看板や店舗専門サイトの活用に加え、第一印象を決める写真・動画のクオリティを高めることが極めて重要
・募集から3ヶ月経過しても反響がない場合は、市場動向を見極め、賃料やフリーレントなどの条件を柔軟に見直す姿勢
■「設備・構造」:事業計画の土台となるハードの力
テナントが物件を内見する際、彼らが最も重要視する要素の一つが「設備・構造」です。これらは、テナントが入居する際の内装工事の手間とコストに直接影響を与えるだけでなく、場合によっては事業そのものの実現可能性を左右するため、賃料交渉においても決定的な要因となります。
特に、飲食店や美容室、クリニックといった特定の業種は、事業運営に必須のインフラ要件が法律や保健所によって厳格に定められています。例えば、電気容量(契約アンペア数)やガスの口径が、その業態で求められる基準に達しているかは死活問題です。もし、物件の既存設備が必要な容量や口径に不足している場合、テナント側で高額な増設・改修工事を行わなければなりません。この初期投資の増大が、出店を断念する最大の理由となるケースは非常に多いのです。
オーナー様が取るべき対策は、まずご自身の物件の設備スペックを正確に把握することです。その上で、もし飲食店や美容室などの誘致を視野に入れるならば、容量が不足する場合の増設にかかる概算費用まで把握しておくことが望ましいでしょう。テナントから問い合わせがあった際に「増設は可能だが、費用は〇〇円程度かかる見込み」と即答できれば、テナント側は迅速に事業計画に組み込むことができ、交渉は格段にスムーズになります。
同様に、飲食店の誘致において大きなハードルとなるのが、給排水・排気設備です。特に、厨房からの油を分離する「グリストラップ」の設置義務や、匂いや煙を外部に排出する「排気ダクト」の経路確保は、構造上の問題で対応できない物件も少なくありません。多くのオーナー様が、これらの問題を懸念して「飲食店不可」としてしまうのは無理もないことです。しかし、それは同時に、賃料が高めに設定でき、長期入居も期待できる優良な飲食店テナントを、最初から排除してしまっていることにもなります。
ここで重要なのは、リスクを恐れて一律に「不可」とするのではなく、「改修の費用対効果を試算」し、「飲食相談可」というスタンスを検討することです。例えば、グリストラップの設置場所をオーナー側で指定・確保する、あるいはダクト新設のルートを検討しておく。こうした準備によって「業態の幅を広げる」ことが、結果として物件の競争力を高め、収益力アップにつながります。
さらに、テナントが集客、すなわち「お客様からの見え方」という点で非常に重視するのが、「天井高」と「間口」です。天井高は、空間の開放感に直結します。天井が低いと、どれだけ内装を工夫しても圧迫感があり、顧客に窮屈な印象を与えてしまいます。逆に、天井が高い物件は、それだけでラグジュアリーな空間や、クリエイティブなデザインを実現しやすくなります。
間口、すなわち道路や通路に面した入り口部分の広さは、店舗の「顔」そのものです。間口が広い物件は、視認性が高く、お客様が入りやすい開放的な雰囲気を作り出せます。また、看板の設置可能なスペースがどれだけあるか、デザインの自由度がどれだけ確保されているかも、テナントにとってはブランディングに直結する重要なポイントです。オーナー様は、ご自身の物件の間口の広さや、看板設置に関する制限(あるいは制限のなさ)を再確認し、それを「デザインの自由度」として積極的にアピールすべきです。
■「運用・管理」:長期契約を支える安心感
テナントは、多額の初期投資(内装費、設備費、保証金など)を行って出店します。彼らにとって最大の目標は、その投資を早期に回収し、継続的に利益を上げることです。そのため、彼らが物件に求めるのは、単なる「場所」ではなく、「長期的に安心して事業を継続できる環境」です。
この「安心感」を醸成する上で、設備・構造といったハード面と並んで、あるいはそれ以上に重要となるのが、物件の「運用・管理」状況です。テナントは、投資回収の観点から、普通借家契約はもちろん、たとえ定期借家契約であっても10年以上といった長期の契約を望む傾向が強いのです。
彼らが内見時に、設備と同時に必ずチェックするのが、建物・共用部の清潔感です。エントランス、階段、エレベーター、そして外壁。これらは、入居するテナントだけでなく、そのテナントの「お客様」も必ず通る場所であり、まさに「物件の顔」です。もし、これらの場所にゴミが散乱していたり、汚れや破損が放置されていたりすれば、テナントはどう感じるでしょうか。「この物件では、お客様を呼べない」「このオーナーは管理意識が低く、トラブルが起きても対応してくれないかもしれない」と判断し、契約を見送るでしょう。集客への悪影響を本能的に察知するのです。オーナー様は、定期的な清掃に加え、可能であれば毎日「物件の顔」をチェックし、テナントへ与える第一印象を常に最高のものに保つ努力が必要です。
契約面での「安心感」も極めて重要です。特に、テナントが初期投資と同じくらいリスクとして捉えているのが、退去時の「原状回復」です。もし、その原状回復のルールが曖昧であれば、テナントは「退去時に法外な費用を請求されるのではないか」という不安を抱えることになります。
オーナー様は、契約前に「退去時の原状回復の範囲」を明確に提示しなければなりません。例えば、「スケルトン(建物の躯体以外、すべて撤去した状態)での返却」が原則なのか、あるいは「居抜き(内装や設備を次のテナントに引き継ぐこと)」での退去も交渉可能なのか。この点をクリアにしておくことで、テナントの初期投資(あるいは撤退時)のリスクを低減させ、入居へのハードルを大きく下げることができます。
そして、この「運用・管理」における柔軟性が、テナント業種の柔軟性にもつながります。前述の通り、飲食店は収益性が高い一方で、匂いや騒音、ゴミ処理などの問題から敬遠されがちです。しかし、これらのリスクは、オーナーとテナントが協力し、ルールを定めることで管理(マネジメント)できる部分も多くあります。リスク管理をしっかり行った上で、収益性の高い飲食業などについても「相談可」という姿勢を示すこと。この柔軟なスタンスこそが、他の物件では断られた優良テナントを迎え入れるチャンスを生み出すのです。
■「募集活動」:魅力を最大化し、届ける技術
どれほど素晴らしい設備と管理体制を備えた物件であっても、その存在と魅力が、物件を探しているテナントに届かなければ、契約には至りません。空室期間の短縮は、そのまま収益向上に直結します。したがって、「募集活動」は賃貸経営における極めて重要な戦略です。
募集活動の基本でありながら、意外と見落とされがちなのが「現地看板・募集ポスター」の設置です。そのエリアで出店を検討しているテナント担当者や、彼らと契約している不動産業者は、実際に街を歩いて物件を探していることが多々あります。物件の窓やエントランスなど、人通りの多い場所に「空室であること」をアピールするポスターを設置するだけで、思わぬところから問い合わせにつながるケースは少なくありません。現地でのアピールは、機会損失を防ぐための第一歩です。
次に、オーナー様が確認すべきは、募集情報が「複数媒体へ掲載」されているかどうかです。仲介を依頼している不動産会社は、どのような媒体を使って募集活動を行っているでしょうか。一般の不動産ポータルサイトだけでなく、店舗物件を専門に扱う「店舗専門サイト」へ掲載するなど、ターゲット層に的確にリーチする努力をしているでしょうか。募集が特定の媒体に偏っていては、露出は限定的になります。オーナー様も、仲介会社に任せきりにするのではなく、露出が最大化されているかを定期的に確認し、必要であれば媒体の追加を提案する積極性が求められます。
そして、現代の募集活動において最も重要と言っても過言ではないのが、「写真・動画のクオリティ」です。テナントの物件探しの第一歩は、ほぼ間違いなくインターネット検索です。彼らは、膨大な数の物件情報をオンラインで比較検討します。その際、物件の第一印象を決めるのが「写真」です。
もし、写真が暗い、狭く見える、魅力が伝わらないものであれば、その物件は内見以前の段階で、クリック一つで候補から外されてしまいます。逆に、プロが撮影した明るく魅力的な写真、特にその物件の「強み」(天井高、間口の広さ、日当たり、開放感など)が最大限に伝わる写真は、テナントの「実際に見てみたい」という意欲を強く喚起します。動画もあれば、なお効果的です。この「デジタルの第一印象」に、どれだけコストと手間をかけるかが、内見の反響数に直結します。
最後に、「募集条件の見直し頻度」です。市場の相場は常に変動しています。「待ち」の姿勢で、一度決めた賃料や敷金・礼金の条件を頑なに変えないでいると、空室期間はいたずらに長引くだけです。もし、募集開始から3ヶ月経過しても反響が全くない、あるいは内見があっても契約に至らないのであれば、それは設定した募集条件が現在の市場と乖離している可能性が高いという明確なサインです。
その際は、仲介会社と市場の最新動向をチェックし、募集条件を柔軟に見直すタイミングです。例えば、賃料を少し下げる、フリーレント(一定期間の賃料無料)を付ける、敷金を減額するなど、条件を緩和することで、一気にテナントの注目を集め、成約につながることは多々あります。
■この記事のまとめ
テナントに選ばれる物件には、必ず明確な「理由」があります。それは、飲食店などの需要に応える「設備の充実度」かもしれませんし、日々の清掃が行き届いた「管理体制への安心感」かもしれません。あるいは、物件の魅力が最大限に伝わる「募集活動の質の高さ」かもしれません。
空室対策に悩むオーナー様は、ぜひ一度、本日ご紹介した「設備・構造」「運用・管理」「募集活動」の3つの視点から、ご自身の物件を客観的に見つめ直してみてください。強みをさらに伸ばし、弱みを改善する具体的な対策を実行することこそが、空室期間を短縮し、賃貸経営の収益力を向上させる最も確実な道です。もし、ご自身での判断が難しい場合は、店舗の「斡旋・管理」のプロである店舗ネットワーク加盟店に、ぜひご相談ください。
